Made of だんぼーる
〜〜〜日が暮れて晩御飯
〜〜〜日が暮れて晩御飯
ふぅ・・・・・・。
なんとなしに視線を上げると風に揺れるエノコログサの姿があった。
何となくそれに惹かれた。
作業の手を止めてじっと風に揺れるその姿を見つめる。
群青色の落ち着いた表情をした夕闇空。
その根元には空の色に染まった桜の海がサザナミを繰り返してザワザワと微かな音を響かせる。
妖しい・・・まるで生きて、蠢いているかのようだ。
桜の下には死体が埋まっている。
そう思う心が少しだけ神秘的なこの光景と交じり合って、俺の心に不安を落としているのだろうか。
・・・・・・人ってのはキレイなものと死を隣り合わせに考えるところがあるのかな・・・。
まあ良い。
あの頃よりはずっとマシだ。
ちょっとぐらい変な場所でも、ここは・・・平和だ。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
風向きが変わった。
少し水気を含んだ風に炊飯の匂いが混じり込んでいた。
ぐぅ〜〜っとお腹が鳴る。
お腹すいた。
晩御飯まだかなあ。
月子が川辺で夕飯を作ってくれていた。
この分だともうすぐだろう。
けれど作業は終わってない。
平坦な土台としっかりした床。
それとビニールと木の枝で補強した壁は完成したんだけど、肝心要の天井が無かったり・・・
その他にも細かい部分が仕上がっていなくて、これは今日中に終わらすのはちょっと無理そうだ。
せめて夕飯までに当座の天井だけは作っとこうかな・・・。
そう思って作業の手を早めた。
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【月子】ご飯だよ。
月子の声が響いた。
見上げると月子がいる。
【陽司】お・・・そっか。悪ぃ、こっちは全部終わってねぇ。今天井作ってた。
【月子】今日は雨降らない。空を眺めながら寝たい。
【陽司】・・・・・・空か。
悪くない。
けど大丈夫かな・・・。
通り雨なんかあったら今までの苦労が水の泡だ。
【月子】うん。・・・陽司ご飯。
【陽司】わ〜ったよ。いくぞ。
まあいいか、ハラ減った。
立ち上がって月子といつのも炊飯場へ歩いた。
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飯盒(はんごう)で炊いたオコゲ付きご飯。
具の無い味噌汁。
それと農家のオバちゃんに貰ったカブの漬物少々。
【月子】美味し過ぎて記憶喪失?
【陽司】ワケわからんわ。まあ・・・美味いな。
こんな質素な食事だけど、今の自分はどんな美食家よりも美味いメシにありつけてるって自身がある。
味覚なんて結構いい加減なもんだ。
こんなふうに月子と向かい合って、椅子もなくってこんな拾ってきた平たい石に腰掛けて、ただ食事をしているだけなのに何故か幸せというか・・・美味いメシ食ってる。
きっと美味いメシ食うには美味い生活がいるんだろーな。
【月子】味将軍も絶賛・・・。
【陽司】まあ・・・・・・美味いな。
【月子】うん。
不思議な連帯感を感じた。
俺が棲家を作って・・・月子が食事を作って・・・。
・・・・・・俺ってそんなに無力じゃないのかもしれない。
少なくとも、今この俺は月子の力になれていると思う。
【月子】今回は・・・焦げてない。
【陽司】ん・・・?
【陽司】・・・ああ。オコゲ炭になってないな。巧くなった。
【月子】・・・うん。
オコゲを口に運んで味噌汁で流し込んだ。
美味い。
ただの漬物がご馳走に見えるから不思議だ。
最後の一切れを口に運んで白米を掻き入れた。
【月子】良かった。
【陽司】・・・何が?
【月子】・・・・・・さぁ。なんだろう。
【陽司】・・・・・・なんだよソレ。
相変わらずよくわからない。
しかし少なくとも俺をからかっている様子にも見えない。
【陽司】そうかよ。
【月子】うん・・・。
月子が良いならイイか。
こいつの頭ん中ワケわかんねーし。
【陽司】良い天気だよなあ。
【月子】うん。・・・夜だけど。
【陽司】関係ねえさ。
【月子】うん。
【陽司】今日は先風呂入らせてくれないか?汗かいちまった。
【月子】一緒に入る・・・。
【陽司】だからそれは却下だ。
【月子】背中流してあげるから。
・・・・・・・・・なんでこんな誘惑するかな、こいつ。
俺が怖くないのか・・・?
【陽司】勘弁してくれ。
【月子】・・・・・・わかった。
【陽司】助かる。
飯盒にこびり付いた最後の米を箸で削いで口に入れた。
すぐに飲みこまないで必要以上によく噛んで食べる。
・・・・・・あ〜〜足りないなァ。
もっと食いてぇ・・・。
といっても金銭的余裕が無い。
このままじゃマズいよなあ・・・。
仕事を見つけるなり、自給自足するなりなんとか生計を立てなきゃな・・・。
【月子】だいじょうぶ・・・きっと何とかなる・・・。
【陽司】・・・・・・勝手に頭の中読むな。
【月子】ふふっ・・・陽司って顔にすぐ出るから・・・。
【陽司】ちっ・・・。
だからといって思考まで読み取るお前もお前だよ。
【陽司】ふう・・・。
石の椅子はお尻が痛い。
だらりと野草の上に横になった。
【月子】ふぃ・・・食った食った・・・。
【陽司】だから勝手に人の頭の中読むな。
【月子】顔に出てたから・・・。
【陽司】出てても言わないのがプライバシーってもんだ。
【月子】そう・・・。
なんか地面が冷たくて気持ち良いな・・・。
食後だけあって少し熱い。
視線の向こうには藍色の空。
木々の支脈の向こうに宝石箱みたいに沢山の星屑がキラキラと輝いていて・・・
【月子】遠いところに来ちまったな・・・。
【陽司】・・・・・・・・・・・・。
そう思った。
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